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ゲコとゴキブリの話

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Guardian Geckos vs. Hawaiian Cockroaches

それは、成長が遅かった私が、学校もやっと終わり、ハワイで社会人として生活を始めた頃の事でした。

ワイキキでの仕事も見つかり、誰かとシェアをしなくても、安アパートが借りられるようになったのです。ベッドも机も台所もまぜこぜのたった一部屋のアパートでしたが、「私の部屋」と呼べる場所が持てると、念願「一人暮らし」の夢が叶って、私は大変ハッピーでした。いよいよ、私の独立生活が始まるぞ!お子様プールサイズだけど、プールだってついてる、前金と一か月分の家賃を前払いして、ルンルンと引っ越しに臨んだ私でした。

 

しかし、前の住人が油ギトギト料理中心の香港人だったからでしょうか、それとも、ロケーションがよかったせいでしょうか、そのアパートは、ホノルルでもまれにみるゴキブリの天国、天国の中でも一等地だったのです。

「ゴキブリなんてどこにもいるじゃない」とおっしゃる方は、ハワイのゴキブリ事情をご存じない。世界一の経済大国アメリカで皆が集まるリゾート地ハワイ、そこに生息するゴキブリたちは、その数、種類ともに決してハンパではありません。人が集合して暮らしているマキキ地区のアパートでは、ゴキブリだって仲良く集合住宅形態で暮らしていたんですね。いやああ、おなじみB29版の直撃で飛んでくる大型、小粒なコソコソタイプ、平凡人型、茶色いの、シマシマ入り、ただの黒いの、光輝くタイプ。その体型もですね、梨型体型、スリム系、細いの、つぶれた感じなの、こんもり型。スピードだって、超速ダッシュ型、飛ぶように這う奴、のんびり散歩タイプ、ありとあらゆるゴキブリがいるのです。そして、その全種がそのアパートに、私のアパートに、それはそれは仲良く幸せに共存をしていたのでした。

 

そのアパートが絶対にゴキブリ一等地だと思ったのは、仕事帰り暗くなってから、一人スーツケースを持って入居したその瞬間でした。電気が付いた途端、ササッと逃げるのがゴキブリというもののはずではないですか。しかし、そのアパートの住人達で逃げたりするのは、全く少数派でした。皆さん「あれ、電気ついたね」という程度の動きの後は、今までいた場に留まってですね、まるで金曜日の夜アラモアナのフードコートで和気藹々と夕食をしているかのように、誰も動じずに歓談を続けています。

 

そして、私は見てしまったのです、ゴキブリの交合、それも「白昼」堂々と。周りにいっぱい他人がいるというのに。私が「新しいトースター置いて」なんて考えていたカウンターのど真ん中。更に私は見てしまいました。ゴキブリのアルビノ。つまり先天性白化症のゴキブリ。真っ白のゴキブリ君なんて、もう博物館も腰を抜かすんではないかと。たとえ遺伝的に問題があるゴキブリでも、ちゃんと仲良く生きていけるような、ハワイでも有数の理想的なアパートだったわけです、そのアパートは。

 

まだうら若き20代であった私は、鳥肌を立てて(ハワイではチキンスキンと言います)激しく絶句。その夜は圧倒されたまま、なすすべもなく電気を消し、べそをかいてすごすごと友人宅に逃げ込みました。

 

「ああ、どうしよう、もう前金払っちゃったし、あんな所で寝るのなんて絶対無理。契約解約したい」とひたすら弱音を吐く私。しかし、ハワイ生活が長かった先輩の友人は、叱咤激励します。「ゴキブリが何よ。家賃を払うのはアナタで、ゴキブリではないでしょっ!やっつけるのよ、何としても、とことんやるのよ!」アメリカで一人暮らししている日本女性に、こういう逆境に強いタイプが多いんですね。

 

ロングス行ってboric acid(ホウ酸)っていうのを買って来て。それから、洗面器に水をはって石鹸水も入れて置いてね。こっちでは、ゴキブリハウスかHoy Hoyっていうんだからね、後は、ナイトランプで誘き寄せるやり方もあるし、殺虫剤なんか使わなくてもね、ダイアトマイト(珪藻土(けいそうど))というナチュラル方式もあるらしいよと次々と指示を出してくれました。最終的には、不動産屋さんに相談して、専門家に徹底除虫を頼み、大枚はたいて掃除人も雇い、数週間後に何とか暮らすことができるようになったのでした。

 

この経験の後、しばらくハワイで暮らして、私も知恵がつき、ハワイと言ってもゴキブリのいないアパートもある事を発見しました。それは、ハワイの人達がMo’o(モ‘オ)と呼ぶゲコが暮らしているアパートなのです。ポリネシアからカヌーに便乗しハワイにやって来たというゲコは、ハワイでは立派な神様の一人です。神秘的な力を秘めた守護神と考えられているそうです。実は今暮らしているハワイ大学近所のアパートも、茶色の地味~なゲコ神がお守りのように暮らしてくれています。周りに適度に緑があって、マノア谷の湿気が近いのが、よいのでしょうか。キュキュキュキュと独特の声で鳴いては、夜な夜なゴキ君たちを静かに召し上がってくださるゲコ様が沢山いるアパートです。私は密かに「小さい恐竜様」と呼んでいます。

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目撃した事はありませんが、ゲコ神は何でもB29型の大型ゴキブリも、難なく食してしまうのだそうです。たまに鉢植えを動かしたりすると、驚いて逃げたりするのですが、その度に丁重に謝罪を入れて、他のアパートに行ったりしないよう、お留りいただけるようお願いします。あのゴキブリ天国の経験依頼、私にとってゲコ様は、本当に守り神だと思っているからです。

(注記 めいぷるの編集長は死んだゴキブリを見ただけで、隣に歩いている人の肩に飛びあがる勢いのゴキブリ嫌い。今度ゲコ神一家に分家をお願いして、彼方にもご利益を届けたいと思っている今日この頃です。)

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