火山の神、ペレはタバコがお好き?
ハワイの火山神ペレをめぐる伝説神話は、沢山あるので、そのどれかをお聞きになったことがある人は多いでしょう。
気が強くて喧嘩っぱやい女神、イケメン男が大好きですぐ恋におちいる嫉妬深い女神、姉妹たちと死闘を繰り返し、今でも復讐の機会を待ってハワイ島のキラウエア山頂ハレマウマウに暮らしていると信じられているペレ。私はこのペレ女神姐さんが、実は大好き。いい子ぶらない所、嫌なモノは嫌で何が悪いと言えちゃうところ。男は恋の対象、女を愛でる為にいるのよと開き直っている所。気に食わないことがあると気まぐれに大破壊をもたらすのは、地元人には「困ったもんだ」ですが、まあ、火山の女神様ですから、その辺は仕方ない。
ハワイのどの島に行ってもペレの伝説を聞く機会はありますが、ペレ在住の地元だけあって、ビッグアイランドの人達は、今でもこの女神への畏怖を隠しません。乞食の姿でやって来て、施しをしてくれた善良な村には溶岩が来ないようにしたけど、反対に出し渋った村にはちゃんと溶岩を流したとか、困った人を助けた人にはそれなりのご褒美が出たとか、親たちが子供を諭すのに恐ろしい女神ペレの存在を利用しているような所も多々あり。
ペレは大抵2種類の姿で人々の生活に登場します。一つは長身であでやかに色っぽい若い美女。もう一つの方は、魔法使いのように醜くて恐ろしい老婆。共通点は二人とも長い髪、白い犬を連れている所、たいてい食べ物や飲み物より「タバコない?」なんて聞くところ―火山の神様なので。ペレに出会ったという人が、さらに話を広めるので、「ペレ出没」の話はハワイ各地で尽きません。
友人のジョーさん。米国東海岸で看護師をしていた人ですが、早期引退をしてしばらくハワイ島のツアーの運転手をしています。このジョーさんが、ある日興奮冷めやらぬという口調で語ってくれた話。
「いやあ、運転手仲間からは聞いていたけれどね、まさか、自分が体験するとは思ってなかったね。俺はタバコはずっと前にやめてるんだけどね、夜中にカイルアコナからヒロまで帰ってくることが多いスケジュールだと言ったら、仲間が『タバコとマッチを車のダッシュボードに入れておけ、騙されたと思って』って、うるさいんだよ。
あれは、もう真夜中の11時半は回っていたよなあ。お客さん達を遅い便に乗せるためにコナ空港で降ろしてね、自宅のあるホノカアまで火山道を帰って来た。その女性は本当に真夜中の暗い道をすたすた一人で歩いていたんだよ。犬?犬なんかいなかった。一人だよ。長い髪を束ねず垂らしていたね、普通のポロシャツみたいなのとスカートを履いていたかな。車もほとんど通らない。いくつ位かなあ、若くはなかったね。40歳ってところかな。
俺は、アレ、車がエンコでもしちゃったのかなって思った。だって、前後何マイルも人家なんかないんだから。それで、まあ親切心だして、車を停めて「おい、大丈夫か?」って聞いた。そうしたら、その女は、平気な顔をして、「私は大丈夫、だけど、あんたどこまで行くの?」って聞く。「ホノカアだけど、乗せて行ってやろうか」って言うと、「じゃあ、後ろの席に乗せてもらって、仮眠とってもいいかな」と言う。「どこでも座ったらいいよ、お客を降ろした所で、7席全部開いてるよ」って言った。車の音楽を小さくして「水飲むかい?」って聞いてやった。そうしたら、これ、本当だよ、作り話じゃないからね、本当に、「タバコない?」って聞いたんだ。そこで、急に運転手仲間の話が思い出されて、さーっと顔の血が引いたね。「わぁ~出た~!ペレだ~!」もう膝がガクガクして、後ろを振り向けない。ダッシュボードからタバコとライターを出して、後ろの席にほおり投げた。」
しばらく硬直状態で運転を続けたジョーさんの後ろで、その、若くも美しくも、老婆でも醜くもない、夜道のヒッチハイカーは、ゆったりとたばこを吸っているようでした。たばこの煙がジョーさんの運転席までジワーっとただよって来ます。しばらくして「中年のペレ」は、言いました。「あ、ここでいいよ。停めて。ここで降りる」
タバコを用意していたのがよかったのか、ペレ好みのイケメン男でなかったのが幸いしたのか、ジョーさんには何の危害もありませんでした。ただ、「ハワイの人は、伝説のペレなんか信じてるよね」なんて、米国本土から来た人らしくクールでいたジョーさんも、すっかりハワイの人になってしまったようです。聞いてくれる人がいれば、ジョーさんは繰り返します。
「本当だ。本当に会ったんだ。ペレはいるんだって。車の中にはタバコとマッチは入れとけよ!」
イケメン禁煙家の男性の皆さん、真夜中にハワイ島を運転する際は、くれぐれも注意の事。たばことマッチは常備いたしましょう。
Photo Credit: Daniel Barker Photography
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