ハワイのニワトリたち(Hawaiian Chickens)
ハワイは、寝坊する事が大変難しい場所です。それは、人間よりずっとずっと繁殖が早く、これまたずっと元気に見えるニワトリたちが、毎朝(時には草木も眠る丑三つ時から)、高らかに、これでもかという程、時を告げてくれるためです。それでなくても、ハワイ島民は朝が早い。観光業、軍事産業、農業というハワイの主要3産業が、早起きを必要とする職業を多く抱えているのもその一因でしょう。
ハイウエイは、午前6時半を過ぎると、車がビュンビュン通り始めますし、ワイキキのホテルに向かうザ・バスは、各方面から従業員を乗せて、暗い内から大変混雑しています。朝釣り、早朝サーフィング、早朝ゴルフに行く人は、ニワトリ目覚まし時計もありがたいでしょうが、「ちょっと今朝はゆっくりしたい」という朝は、ニワトリ軍団が騒がしく、本当におちおち寝ていられないのです、これが。
ハワイの野生のニワトリ達。可愛らしく「コッ、コッ、コッ」なんて、穏やかなイメージではなくてですね、ビーチ、公園、学校の運動場、病院、野外レストラン、エアポートなど、どこにでも出没しているのを、皆さん見かけたことがあると思います。それに人や犬が近づいても、フンという具合で、全然逃げない。時にはニワトリが場を牛耳ってしまっていて、中に入りにくい場所もあります。駐車場でニワトリ様一家が通るのを待って、渋滞なんてこともしょっちゅうあるのです。観光スポットや軍事施設だってお構いなし。何せ観光客は珍しがって、写真を撮ったり、餌なんかくれてしまうので、ひよこの頃から、ニワトリ族のお気に入りです。野生のニワトリ、ハワイでは実に2万匹以上という数年前の数字も出ていますから、今はどれ位に増えているんでしょうか。
最近、初めてカウアイ島に行ってきた読者から、「何であんなにニワトリかいるんですか」という質問をいただきました。リフエ空港に降り立った途端、野生のニワトリが、飛行機より忙しく、滑走路だって平気で横断しています。お土産グッズもニワトリさんカラーいっぱい。ニワトリのTシャツの専門店まで出来て、どこに行っても、ニワトリのオンパレードです。カウアイ島は、かつてガーデンアイランドと呼ばれていたのに、今ではチキンアイランドというニックネームの方が有名になってしまった程。
さて、この野生のコッコちゃんたち。一体どうしてここまで増えてしまったんでしょう。物の本によりますと、野生のニワトリはポリネシア人が800~1000年位前に連れて来たんだそうです。これはred jumblefowl(日本語の学名はセキショクヤケイ)という名前のついたニワトリ族でした。彼らは遠く南アジアの国から連れてこられ、何百年も細々とハワイの各島で生息していました。
近年船乗りと一緒にやってきたネズミなどの害獣が、ペストなどの疫病を運んできたため、害獣対策にマングースを導入したという歴史がハワイにはあります。マングースはネズミだけでなく、ニワトリの卵が大好物。そこでネズミにもニワトリにも天敵となり、野生のニワトリの繁殖が適度に抑えられていたんだそうです。どういうわけか、カウアイ島だけには、マングースが導入されなかったんですね。ところが1982年と1992年にハワイと襲ったハリケーンイバァとハリケーンイニキの際に、家畜だったニワトリ達が命からがら鳥小屋から逃げ出し、野生となりました。この深窓のお嬢様たちだったニワトリは、生きるためには野生のワイルドなニワトリ男性達と混合してしまいます。(その反対も勿論ありです。家畜化していた雄ニワトリが、ワイルドガールたちに慧眼、じゃなくて鶏眼)そうして出て来た赤ちゃんたちは、新種のハイブリッド、混合野生ニワトリ族となったのです。マングースもいないし、カウアイ島では、ハイブリッド族が元気に一大ニワトリ王国を建設。人間様は一緒に住まわせていただく、という展開となったわけです。
ミシガン大学の動物学、農学の専門家たちによると、ハワイのコッコちゃんたち、野生の禽獣が何百年かかって家畜化され、それが今度は、短期間に再度ハイブリッドとして逆に野生化したという珍しい例なんだそうです。そう考えると、なるほど、ハイブリッドは強い、ハワイ中でエバっているわけだ。
しかし、「カウアイ島もニワトリの大繁殖で大変だよなあ」なんて、海の向こうを眺めていたオアフ島の住人達、他人事とは言っていられなくなってきています。「マングースなんかいても平気、私達には観光客という強い味方が付いているもーん」と開き直っている新種コッコちゃん、昨今オアフ島もにぎやかに侵略しつつありです。「カッウェル~!(ハワイ語のコケコッコー)!」あっちでも「カッウェル~!」こっちでも「カッウェル~!」と、高らかな声に、オアフ住民は今朝も仕方なく目覚めるのでした。
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