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ナルコティクス・アノニマス(NA)

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私のヨガの先生で、抜群の美女、超モデル級スタイルのマーサ先生がいます。

サーフィンやパドルボードもする女性で、こんがり焼けた肌に亜麻色の波打つ長い髪、ポルトガルと中国系が混じったとかのエキゾチックな容姿。ヨガで逆さになったり、膝が頭の後ろに曲がるようなポーズでも、いつもにこやかで、呼吸も乱れない、午後の紅茶でも飲みながらヨガポーズっていう雰囲気の先生でした。

 

いいなあ、ああなれたら、あの美しくくびれた腰よ!などと私は密かに、あこがれておりました。恰好がいい上に、親切な教え方のせいか、マーサ先生のクラスはいつも満員。普通女性が大半のヨガクラスも、マーサ先生のクラスだけは、高校生の男の子から、60代位のお爺さんヨギも来ていましたね。ハワイのヨガ道場、前と後ろのドアが開けっぱなし。パパイヤの木やソテツの間をぬって、そよそよと午後の風が気持ちよし。遠くの潮騒の音が聞こえるし、美女先生にヨガ教えてもらっって、嗚呼、ハワイライフ、いう事なし!

 

話は変わりますが、いっとき私は、近所のコミュニティカレッジで、サブスタンス・アビューズ・カウンセラーになる訓練を受けていました。つまり、薬物覚せい剤依存者たちのカウンセリングのお仕事です。昼間の仕事が終わった後、夜間のクラスに通い、元患者さん達とも、机を並べて勉強する機会に恵まれました。ハワイのローカル達の違った面に触れることのできた機会でした。始めてのクラスで右隣だったのは、3か月前刑務所出所、保護観察期間中であるという体中ポリネシアの入れ墨入りの20代の男性、左側にすわっていたのは、怪我が原因で鎮痛薬からアヘン中毒になり、依存が高じて命を落としてしまったご主人の遺志をつぎ、薬物依存撲滅を目指したいと希望に燃えた主婦の方でした。

 

そのクラスでは、クラス内での本や討論だけでは、実態を学ぶのは無理。外に出て、ハワイの実情を見るように、という必須野外学習が含まれていました。このプログラムで、ハワイは実は、隠れた薬物、覚せい剤、アルコール依存症の方が、いっぱいいる、それも若いグループに特に多いという悲しい事実を学びました。私はクラスメート達と一緒に、地元の教会でのAA(アルコール依存中毒症の互助更生会)、青少年の為のグループセラピーなどにも参加しました。13~14歳の思春期に遊び半分から始めて、次第に薬物使用にはまって行く少女少年が多い事にも気が付かされました。

 

紹介してくれる人があって、毎週金曜日の夜はナルコティクス・アノニマス(Narcotics Anonymous)という聞き慣れない組織の集会にも、通い始めました。ハワイは、アルコール、マリファナに次いで、クリスタル・メスと呼ばれる中枢神経興奮剤の覚せい剤常用者が多いのです。NAではその煉獄のような中毒生活を、涙ながらに語る患者が沢山いました。隣の奥さん、公園にいる老人、普通の学生、ハワイのどこにでもいそうな人達、決して特別な人達ではないのです。非合法の薬物を入手する為、窃盗や盗難など犯罪の道に走る人がいるのは、悲しいことです。

 

ある金曜日の7時、私はいつものように、NAグループにゲストとして参加しました。中毒者でなくても、その家族、友人、カウンセラーなどが、ゲストとして参加できます。もう6-7人集まっていて、前回参加してから、どのような事があったかなどの近況から話し始めます。名前はファーストネームだけ、どこでどんな仕事をしているとか、どこに住んでいるとかは、一切問われません。もう17年も薬物には手を出していない、でも毎日がチャレンジだというベテランから、先月から薬物使用をせず、ひと月を過ごす事ができたという人もいます。一週間「クリーン」だという人に、参加者達は「よくやった、その調子だ、頑張れ」と拍手を惜しみません。

 

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グループが始まってからしばらくして遅れて入って来た女性をみて、私ははっと息をのみました。長い栗色の髪、小麦色の肌、モデルのようなスキッとした姿勢、私の大好きなマーサ先生ではありませんか!先生も私に気が付きましたが、にっこりと笑って軽く頷きます。そして、マーサ先生の番がきました。

 

「私は今月で3年と8か月クリーンです。ヨガをする事、教えることが中毒と闘う方法です。私と一緒にヨガの鍛錬をしてくれる生徒たちの為と思って、一日一日クリーンな生活をしています」

 

堂々と、自分が中毒者であったことを隠しもせず、グループの前で発表するマーサ先生。拒食症からいつか薬物中毒になった経歴、中毒はただ意志の強弱の問題ではなく、脳の病気なのだという認識。助けを求める事は弱いことではないと分かってきましたと発表するマーサ先生。ただの恰好のよいヨガ先生ではなく、一人の人間として、弱さや苦悩をはっきり認めることができる女性であるという事が、その一言一言から伝わってきました。ああ、だからあんなに輝いて見えたんだ。人は表面だけで判断してはいけません!

 

サブスタンス・アビューズの勉強を続けていて、ハワイで多くの素晴らしい人達に会う事ができました。南太平洋のパラダイスに暮らしていても、人間の葛藤や苦しみは、やっぱりどの町、どの国とも同じようにあるのだなあと思います。でも、間違いを認め、その問題に一日、一歩ずつ取り組む人達に会う事で、本当の人間の強さのようなものを、垣間見ることができたと思っています。ハワイの海と空は、その人や家族をしっかり包む包容力に溢れています。

 

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